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ここは自分の好きな事をダラダラと物申すブログです、不定期ですが(苦笑)
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一人待ちの雑踏を抜け裏道に入りながら封筒の中身を見る。
内容は実に簡潔、いつも通りの内容だった。

(・・・スラム街・・・。)

そこが今回の『仕事場』、シルヴィーは多少暗鬱な気分になりながらも、そちらへと足を進めていく。

(・・・早く・・・終わらせましょう・・・。)

その目に冷たい光を宿し、目的の場所へと向かった。
 
             ・
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             ・

その頃、ティアは国立図書館へと来ていた。
ティア自身、この町を把握するために、まずココの地理を知っておかなければならない、というのは本人の弁である。
そんな訳でティアは早速支所の女性に話をかけた。

「すいません、少しよろしいでしょうか?」

「はい、何か御用ですか?」

「この町の地図は置いてあるでしょうか?」

「地図でしたら、そこの階段を上りまして、手前のから三つ目の棚に御座います。」

史書の懇切丁寧な説明で場所を理解したティアは微笑を浮かべながら、「ありがとう御座います」と礼を言い、目的の物を見るために階段を上がっていた。
その後ろ姿を熱っぽい視線で史書が見ていたことにティアは気づいていなかった。

             ・
             ・
             ・

そこは薄暗い小屋の中。
蝋燭の灯火が揺らめくその部屋で、向かい合うように二人の男が座っていた。

「・・・これを見ていただきたい。」

口頭一番、初老の男がトランクを取り出し、中を開いてみせる。
その中身を見ながら、ヒゲ面の男は「ふむ・・・」と声を出しヒゲを撫でた。

「・・・これだけの金・・・何がお望みで?」

「受けて頂けるのかな?」

「内容によりますな。」

ヒゲ面の男は、「もっとも・・・」と続けた

「この盗賊ギルドに来るんだ、真っ当な内容ではあるまい?」

初老の男性はその問いには答えず、事の内容を話し始める。

「町で国に対してのデモを起こして欲しい。」

ヒゲ面の男は一瞬、神妙そうな顔をすると口を開いた

「・・・して?デモなどを起こしてどうする。」

「現・国王の不安を煽る。」

「・・・そんな事をすれば、今の国王のことだ、また我々を含む平民に税と兵による圧力がかかるやも知れんぞ?」

初老の男性はその言葉に笑みをこぼした。
それこそが真実だとでも言うように・・・
それを見たヒゲ面の男も、今回の真の目的を悟ったようだった。

「なるほど・・・つまり、この5年間の圧政によって民の不満が高まっている今にデモを起こして、さらなる過税をさせ民の怒りを爆発させる・・・そういう訳だな。」

「ご名答、さすがはギルドの頭を務めてるだけはありますな。」

「そう上げてくれるな・・・しかし・・・なるほど、だからこそのこの金額か。」

もう一度トランクを見る、そこへ初老の男の声が入った。

「これはあくまで前払い・・・成功した暁には、納税の削減、スラムの復興・・・どうですかな?」

「・・・。」

ヒゲ面の男はやや沈黙した後

「良いだろう。」

と答えた。
彼にとっても、今のこの国は生きにくい場所になりつつある、完全にだめになる前に手を打たねばと思っていた矢先のことだったので頷いたのである。
二人の男が契約成立としたところで密会が終了する・・・と思われた。

「・・・残念ですが、その計画は今、この時を持って終えます。」

凛とした声が部屋に響き渡る。
ヒゲ面の男がいち早く反応し、武器を構え

「何や―――――――――――――――」

しかし言葉が最後まで続くことは無かった・・・何故なら

『ザン・・・・!!』

それよりも早く放たれた白刃がヒゲ面の男を切り裂いたからであった。
男は痛みを覚える事無く絶命し、その場に倒れ伏した。

「くっ・・・己!何者だ!!」

護身用のサーベルを構え、初老の男が現れた影に叫んだ。

「・・・。」

影は答えない、ただ一歩・・・また一歩と初老の男に近づく。
やがて、ボウ・・と蝋燭の灯火が影の姿を淡く照らし出した。
その姿を初老の男性は知っている・・・。

「な・・・シル・・・ヴィー・・・・!!!」

「王宮貴族、ユルングルス・イーガル・・・貴殿の命、貰い受けます。」

『チャキ・・・』

刀を構え、シルヴィーはユルングルスを、その冷たい眼で捉える。

「な、何故だ!この計画が上手くいけば君も『スラム街』の住人としてではなく、一般市民として・・・!!」

「・・・私にそのような物は必要ありません。」

キッパリと口にした。

(・・・そう・・・私にはあそこで守らねばならぬ物があります・・・。)

目を閉じ、ブレた心を集中させ、目の前のことに専念する。

「・・・く・・・ここまでか・・・!!」

「・・・貴殿には申し訳ありませんが・・・さようなら。」

その言葉が呟かれるのと同時に、シルヴィーの放つ白刃が閃いた。
自らの視界が真っ白になっていくのを感じながら、ユルングルスは意識を閉じた。

             ・
             ・
             ・

「・・・・。」

シルヴィーは近くの川で刀に付着した返り血を拭き取ると、報告を行うためゼスカーの下へと訪れた。
事を報告するとゼスカーは一言「ご苦労だった。」とだけ言って下がらせた。

「・・・。」

それがいつものパターンだった。
報告を終え、シルヴィーは溜息を一つ吐くと騎士団領を抜け市場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五幕       了

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詩人は最後にもう一度、竪琴を鳴らし詩を終えた。
シルヴィーが気がつくと周りの者が涙を流しながら手を叩いているのに気がついた。
その中に自分も含まれていた事に、シルヴィーは後になって気がつく。
それは自分でも気がつかないほど、詩人の奏でる詩に惹き込まれていたのだと言う証拠でもあった。
詩人は姿勢を正すと、始まりの時と同じように帽子を手にとってお辞儀をした。

「皆様、この度は御清聴ありがとう御座います、本日はこれにて終了させていただきます。」

詩人の声にハッとした様に周囲の人々が、先ほどのシルヴィーよろしく涙を流していることに驚いているようだった。
観客達は一斉にお金を詩人の下に投げる、中には詩人の前に立って厳かに手渡す者さえいた。
シルヴィーも涙を拭い、お金を出そうとし

「おい、兄さん・・・ちょっと待ちな!」

その手が止まった。
前を見やれば詩人の前に身の丈2メートルと言ったところの厳つい男が立っていた。

「兄さん、ちょいとお尋ねしたいんだが、誰の許可を得てココで演奏してるんだい?」

見るからに柄の悪そうな男は詩人に荒々しく聞いていた。
しかし、服装はしっかりとしており、大方、没落貴族だと判断できる。

「付近の人に尋ね、ココでなら構わないと聞きましたので。」

対し、男の荒々しい声にまったく物怖じしていないのか、詩人は穏やかに答えを返した。
その顔には微笑の二文字しかない。

「じゃあ、覚えておくんだな。
この広場は私の管理している土地だ、当然、私の許可無くして商いは出来ん。」

男はそう言うと、詩人に送られたお金拾い集め、これは私の物だと言い出した。
当然のことだが、これを不満に思った観客達が男を責め立てた・・・が、しかし没落したと言えど貴族と平民。
貴族はそれを馬鹿にし、あろう事か

「私の土地で私が何をしようと私の勝手だ。」

等とのたまい始める始末である。
だが、当然の事ながらその怒りを持っているのは力の無い平民だけではない。

(・・・見ていられませんね。)

このシルヴィーも観客達と一緒だった。
シルヴィーは詩人にチラリと見て思う。

(それに・・・この行為は観客だけではなく、何よりもあの詩人に対する侮辱だ。)

シルヴィーは人をかき分け、詩人と男の間に割って入った。

「それぐらいにしておく方が無難です。」

単刀直入、男が何かを言う前にシルヴィーは睨みつけながら言った。
男はいかにも不機嫌そうにシルヴィーを見ると、その顔をさらに歪める・・・ソレはまるで、汚物を見るかのような目だった。

「ちっ・・・何処の馬の骨かと思ったら・・・【異端者】か。」

「貴殿は先程、この中央広場を私有地とおっしゃいましたね・・・その言葉に虚偽はありませんね?」

シルヴィーは男の放つ悪態を黙殺し問い掛けた。

「ああ、そうだとも。」

対する男も勝ち誇るように答えた。

「なるほど・・・では、『誓約書』を拝見させていただきます。」

「・・・は?」

「誓約書です、この地は王の所有地であらせられます。
故に、この中央広場の様な一般大衆用の施設を貴族に預ける場合、国王陛下勅命の誓約書にサインし双方が保管する仕組みになっています。」

すらすらとシルヴィーの口から説明が飛び出る、その勢いは留まることを知らない。

「また、この勅命が下るのは国王陛下の近親者、もしくは国王陛下に縁のある者とお見受けします。」

そこに、男の反論の余地は許されない剣幕がある。

「ぬ・・・ぐ・・・!」

男は旗色が悪いのか、かすかに呻き声をあげた。
しかし、それでもシルヴィーは止まらない。

「では、改めて誓約書を拝見させていただきます。」

至って平然と言い放ち、男の出方を待つ。
男はわずかに逡巡した後に口を開いた。

「い・・・家に保管してある。」

その声は震えていた。
しかし、それと同時に男は希望も抱く。
家に帰れば誓約書の一つや二つ偽造することなど・・・男はそこに希望を抱いていた。
・・・だがしかし、現実はそう上手くいかないのが常である。

「では、家に保管してあるのですね?」

シルヴィーが間髪いれずに確認を取る。

「くどいぞ!家にあるといった!!」

シルヴィーは「なるほど・・・」と呟くと半眼で男を睨み上げた。
ここで、シルヴィーの『勝利』が確実な物となったからだ。

「では、お金を置いて今すぐお引取り願いましょう。」

「な、何故だ!まだ誓約書を見ていな―――――――」

「・・・お分かりにならないんですね。」

やや呆れたようにシルヴィーが呟く、そこには侮蔑のような響きも含まれている。

「誓約書なんて存在しません。
ここは国民全ての物であり、個人の物ではないと法で定められてます。」

その言葉を聞いて男は今度こそ青ざめた。
カマをかけられたのだ・・・この異端者に・・・

「い・・・【異端者】め・・・!!」

「お分かり頂けたのであれば、早急にお引取り下さい・・・不愉快です。」

丁寧口調による、明らかな侮蔑に男の頭が白くなりかける。

「こ・・・の!!」

シルヴィーを殴ろうと構えた、その刹那。

『シャラッ!!』

シルヴィーの刀が独特の抜刀音を奏で、男の首へと突きつけられた。

「・・・今すぐ、その手にもったお金を置いて立ち去りなさい。
それは観客の物であり、ひいてはソレを送られた詩人殿のものです。」

半眼・・・視線だけでも切り付けられそうな殺気が男を襲った。
それでも何やら反抗しようとしている男を見て、さらに刀が数センチ動いた

「もう一度だけ忠告します・・・お引き取りください。」

完全に切羽詰った男は何歩か後ずさると大口を開いて

「この・・・化け物め!!」

小悪党のようなお決まりの捨て台詞を吐いて、観客の人ごみの中に消えていった。
それを目で確認し、シルヴィーは「ふん・・・。」と鼻を鳴らして刀を鞘に収めた。
次にシルヴィーは、詩人や観客達に頭を下げた。

「お騒がせして、申し訳ありませんでした。」

謝罪だった。
理由はどうあれ、この場を騒がせたのは自分でもある。
だが、やったこと自体は良いことだと言えるだろう・・・だが・・・どうだろう?

「見て・・・あの髪・・・」

「・・・黒いわ・・・」

労いの言葉どころか、逆に化物を見るかのような目で市民は見て・・・そして囁きあっていた。

「【異端者】よ・・・!」

「汚らわしい・・・!!」

町の人々はシルヴィーを避けるようにして、散り散りに町の雑踏の中に消えていった。

「・・・。」

シルヴィーは何も言わない・・・否、何も言えなかった。
このような目にあうのも・・・元はと言えば自分の所為なのだ・・・そう心の中で自重した。
シルヴィーがいい加減、頭を上げようかと思い始めたとき

「・・・頭を上げて頂けませんか?」

正面から詩人の声が聞こえた。
顔を上げれば、やはりそこには先程の詩人がいた。
その顔には、ずっと変化していないのでは無いだろうかと思うような微笑がある・・・

(・・・何か・・・今はその微笑がイラつきます。)

少々、ムッとした。
が、詩人はそれを気にせず、シルヴィーに話し掛けた。

「助けていただき、ありがとうございます。」

そう言って頭を下げたのだ。
これに驚いたのはシルヴィーだった。
礼を言われるとは多少ながらも思っていたが、まさか頭まで下げられるとは思っていなかったのである。

「いや、困った人を助けるのは当然のことです。」

シルヴィーがそう言って詩人の頭を上げさせると、詩人はやはり笑顔で口を開いた。

「なるほど・・・では、助けて頂いたのですから、お礼を言うのも当然の事ではないでしょうか?」

「む・・・。」

詩人のもっともらしい言葉に思わず言葉を返せなくなった。
やがて、沈黙が気になったのか、再び詩人が口を開く。

「どうか・・・されましたか?」

「あ・・・いや、すみません、気にしないで下さい。」

(・・・思わず、考えてしまった・・・。)

すこし顔が赤くなるのを感じながら、シルヴィーはそれを隠そうと平静を装った。

「いえいえ・・・構いませんよ。
それで、何か御礼をしたいのですが・・・。」

「え・・・?」

(お礼?・・・誰が・・・・私が・・・?)

まさか、そんな事をしてもらう訳にもいかない。
シルヴィーは慌てて言葉を返す。

「そ、それには及びません・・・その・・・素晴らしい詩の視聴料とでも思ってください。」

「・・・そうですか、分かりました。」

やや残念そうに答える詩人を見て、微妙に自分が罪悪感のような物を感じたシルヴィーだった。

「・・・では、私はこれで失礼します。」

そう言って、シルヴィーはココから立ち去ることにした。
ココにいると、何故だか調子が狂う・・・そんな感じがしたからでもあった。

「お待ちください。」

「・・・何か?」

呼び止められ、シルヴィーは振り返った。
詩人はやはり微笑で話した

「よろしければ、お名前を聞かせて頂けないでしょうか?」

「・・・人に名を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀だと思います。」

ややつっけんどんに返すシルヴィー。

「これは失礼しました・・・私のことは『ティア』とでもお呼びください。」

シルヴィーは、その丁寧な返しに頷くと自分も答えなければと姿勢を正した。

「私は、シカンダ王国 蘇芳騎士団 第六番隊 隊長 シルヴィー・ファランクスです。
それでは、失礼します。」

シルヴィーは今度こそ広場から離れた。
そして、ティアという名の詩人も呼び止めはしなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四幕         了

詩人の詩が竪琴の音色に合わせて静かに流れる

『・・・昔々、さる国に一つのサーカス団が有った。
そこには団長を始め、数多くの大道芸人が集まっていた。
彼らは、団長の指揮の下、日夜人々を楽しませ、笑顔にするためにその芸を披露した。
その中にたった一人、自由気ままに動くピエロがいた。
彼は普通の人とはすこし違っていた・・・ピエロは喋ることが出来ませんでした、そして彼は他の人達の言葉も理解することが出来なかったのです・・・。』

――――――――――――――ポロン。

それは、詩という形で刻まれる、とある一人のピエロの物語り・・・。

『しかし、それでもピエロは人気者でした。
彼は、団員一人一人がそれぞれが得意としていた芸を練習していました・・・その頑張る姿は団員一人一人がいつも見ていました。
・・・ある時、皆は気づきました。
彼はいつでも笑顔だったのです・・・そして、それはつまり、彼がそれ以外の表情を知らないという意味でもあったのです。
彼はいつも、いつでも皆の劇を練習しました・・・それをやる以外、彼は何も知りませんでした。
それでも・・・そうだとしても、ピエロは皆から可愛がられていました。
皆にとって、彼は自分達のとって大切で大好きな家族だったのですから・・・。』

――――――――――――――ポロン

詩という形で刻まれてくピエロの生涯・・・それは、詩を聞くものたちに唯の言葉よりも明確に心に浸透していった。

『そんなある日のことだった・・・ピエロが流行り病に倒れたのは・・・。
皆は交代で休む事無く、彼を看病した・・・そのような日が何日・何十日と続いた・・・。
だが、流行り病は一向に治ることはありませんでした・・・。
そして・・・ある日、朝日が昇る頃・・・ピエロは静かに息を引き取りました。』

――――――――――――――ポロン

『それからと言うもの・・・団員達はろくに食事も喉に通らないほど嘆きました。
嘆き、嘆いて、嘆き続けた・・・。
ある夜のこと・・・団長はサーカスの舞台の方でなにやら物音がするのを聞きました。
皆は疲れて眠ってしまってるはずなのに聞こえる物音に、団長は泥棒かと思って忍び足で舞台の方に向かいました。
そっと・・・舞台を覗くと、そこには団長の予想を遥かに裏切った光景が広がっていました。

・・・そこには亡くなった筈の、あのピエロがいたのです。
団長は驚きの余り腰を抜かしてしまいました、しかし、ピエロは聞こえていないのか、何やらずっと動き回っていました・・・。
それを見て、団長はハッ・・・としました。
そう・・・ピエロは練習をしていたのです。
ピエロが団員一人一人から教えてもらった芸を、彼は一人で練習をしているのです・・・。
やがて、物音で目を覚ました団員達が起きてきました。
そして、彼らは一様にソレを見て驚きました・・・ピエロが幽霊になっても練習をしているその光景を目にして・・・。
団員の一人は、その姿を見ていられず、ピエロを止めに・・・休ませようとして・・・団長に止められました。
団長は黙って見ているように言いました・・・やがて、ピエロは全ての芸を終えたのか、軽やかに地に立つと、ゆっくりとお辞儀をしたのである・・・まるで、そこに大勢の観客が居るかのように・・・。
ソレを見た、団長たちはやがて目を見合わせあうと、とある準備をし始めたのです・・・何故なら、彼らはその心にある決意をしていたのですから・・・。』

――――――――――――――ポロン

『ソレから、しばらくたった、ある夜の事です。
またピエロは一人舞台の上に立っていました・・・。
ピエロはいつもと同じく、サーカスの中央、団長が立つお立ち台に上り、お辞儀をしました・・・。

・・・すると。

サーカス全体に蝋燭の灯火が・・・タイマツの明かりが灯ったのです。
その輝きが舞台を照らし出しました。
ソレと同時に、ピエロの見上げる観客席に多くの人々が集まっていました。
夜中の町を包む大きな拍手・・・それをピエロは見つめていました・・・それは驚いているようにも見えます。
ピエロがふと自分の背後を振り返りました。
そこに立っていたのは自分の家族達・・・団長が・・・仲間達が立っていました。
皆、笑顔で拍手をしているのをピエロは見ました。
その笑顔は自分に『大丈夫!』と励ます様に・・・『頑張れ!』と背中を押すように言っているようでした。

団長達はあの時から今日この日まで、ピエロの為に走り続けてきました。
唯、物言わぬ彼のたった一つの願いをかなえるために・・・。

やがて、ピエロは一瞬・・・ほんの一瞬うつむくと、パッと顔と両手をあげ、クルッとその場で周囲を見渡すように周るとサーカスショーを始めました。』

――――――――――――――ポロン

『それから、夜を通してピエロをが主人公のサーカスショーを繰り広げました。
まるで、夢の様な一夜の出来事でした・・・しかし、どのようなモノにも始まりがある様に、終わりが訪れます。
ついに、最後のショー・・・ピエロと団員・動物達のパレードも終わりを告げました。
壮大な拍手に包まれ・・・ピエロは嬉しそうに両手を挙げて、自分を囲む全ての人達に応えました。
そして、夜明けの時がきました・・・その時、その場にいる全ての人達が見つめる中でピエロの体が

        キラキラ            
                                        キラキラ
                     キラキラ

と、光の粒子となって天へと上り始めたのです。
その姿を見つめながら、団長や仲間達は拍手で見送ります・・・中には、涙を流す物もいました・・・しかし、それでも笑顔でピエロを拍手と共に見送ります。
ピエロの姿が夜明けの光に包まれ霞んで消えゆく、最後の瞬間・・・ピエロは団長や仲間達の方へ振り向き、その笑顔を向けました・・・

そして、それを見ました。

開かれることの無かった口が何かを紡いだ・・・
ほとんど霞んで見えない体で・・・その手を大きく振った・・・。


――――――――――――――――バイバイ――――――――――――――――


鳴り止まない拍手がいつまでも・・・いつまでも・・・ピエロの為に鳴り響きました・・・。』

 

 

 

 

 

 

 

 


三幕         了

シカンダ・中興噴水広場。
そこは、このシカンダという城下町の中央に位置する、文字通り噴水広場である。
シルヴィーは騎士団領を抜けて、食事処を探すために市場に近い、この噴水広場まで来ていた。
この町は、このシカンダという国の首都であり、海に面している事もあってか非常にモノの流通が激しい。
故に、海に近づけば近づくほど料理店なども多いのである。
シカンダ自身、この中央広場を中心とし、東にスラム街、南に港、兼市場、西に住宅街、北に王城と展開している。
また、住宅街は王城に近づけば近づく程、身分の高い者達、港に近づけば近づくほど、身分の低い物と成っている。
どのような国にも、それが王制という立場を取っている以上は貧困の差は避けられる物ではないのである。

(さて・・・どこに行きましょう・・・。)

そんな事を考えながら歩いていると、噴水の前に大きな人だかりが出来ているのに気づいた。

(・・・何事です?)

シルヴィーは何となくその人だかりが気になり近づいてみることにした。

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近づくと予想よりも人が多くて、中心でなにが起きているのか把握することは出来なかった。

「これは何事です?」

シルヴィーは近くに居た青年に話し掛ける。
青年は相当興奮しているのか、シルヴィーの方には振り向かずに答える

「吟遊詩人だよ!次で最後みたいだけど・・・!!」

息荒く答えると、青年はもっと近くで見たいのか、人を掻き分け前の方へ突き進んでいった。
シルヴィーはそんな青年の姿を見送りながら

(詩人ですか・・・祭の季節でもないのに珍しいですね・・・。)

と考え

(ものはついでですね、少し見ていきましょう。)

シルヴィーは「すまない、通してください。」と言いながら人だかりを抜けて最前列へと向かった。
やがて、人だかりを抜けるとそこには一人の男性が居た。

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噴水の縁に腰掛け、よっぽど大事にしているのか、それとも新品なのか良く分からない竪琴を調律していた。

(・・・アレは・・・相当使い込んでいます。)

シルヴィーはやや遠目ではあるが、それが分かった。
剣や刀という物は使い込めば使い込むほど、その握っている部分が磨り減ったり跡が出来たりしてくる。
他の者はどうかは知らないが、シルヴィーには、いつもそこを持って音を奏でているであろう跡が見て取れた。
それを調律している詩人は帽子で顔は見えないが、口元が緩み、微笑んでいるように見えた。
それを実ながらシルヴィーは

(・・・楽しそうに調律をしていますね。)

という感想をだした。
やがて調律が終わったのか、おもむろに立ち上がる。
たったそれだけの動作なのに、それはとても洗練された、一種の舞のように見えた。
周りの人たちが一気に騒ぎ始める、シルヴィーが「よっぽど楽しみなのですね。」等と考えていると、詩人は左手で帽子を取り、それを胸に抱えお辞儀をした、いわゆる丁寧な挨拶だった。
帽子からこぼれ落ちた、少し長めの髪は限りなく白に近い金色をしていた、女のものかと見間違うほどそれは、手入れをしているのか長いにもかかわらず高貴な印象を与えていた。
顔をあげる、顔つきは非常に整っており、その微笑が人を惹きつける何かをかもし出していた。
・・・が、そんな事よりも違うことがシルヴィーは気になっていた。

(・・・盲目・・・?・・・それとも、単なる細目?・・・どっちにしても、目を瞑っているようにしか見えません・・・)

くだらない事かも知れないが、シルヴィーが一番気になっているのはそんなことだった。
詩人は再び帽子をかぶると、竪琴を鳴らした。

『――――――――――――――――。』

綺麗な『音』が包む・・・否、その程度ではすまなかった。
人々の喧騒が、文字通り『消えた』
シルヴィーはその詩人の奏で出した音が、今この空間全てを支配しているような・・・そんな錯覚を受けていた。

「・・・皆様、大変お待たせ致しました。」

男の声が、その空間に響き渡る。
勇ましく荒々しい声でも、女のようになよなよとした声でもない。
それは・・・そう、とても澄んだ・・・まるで流水の様な綺麗な声だった。

「今から詩いますは、悲劇にして喜劇、とあるピエロの詩で御座います。」
                              ものがたり
そう言うと竪琴が再び、詩人の手によって奏でられ始めた・・・。

 

 

 

 

 


ニ幕        了 

西大陸グロッグ、シカンダ王国・・・そこに今一艘の船が港につく。
船から客が一人、また一人と降りてくる、その中に一人普通とは違う服装をした者がいた。
ゆったりとした服に大きな外套の様なコート、極めつけに羽根突き帽子。
明らかに他の人とは違う服装だった。

「・・・ふむ・・・ここが『シカンダ』ですか・・・。」

船から降り立った、異国の服をまとった男は周囲を見渡しながら呟く。
賑やかな港の雰囲気を体で感じ、男は心が高鳴るのを感じた。

「はてさて、ここではどんな『音』が聞けるのでしょう。」

大事な羽根突き帽子をクイッと上げ、綺麗な青空を見上げると太陽の眩しさに細めをさらに細めた。

「・・・さて、そろそろ行きましょうか。」

男は誰に話すわけでもなく呟き歩き始めた。

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「そろそろ昼時・・・ですね。」

軽鎧に身を包んだ騎士が執務室の窓から澄んだ青空を見上げて一人ごちた。

(・・・昼食がてら見回りもいいですね。)

「・・よし。」

少し時間を考慮した後、行くことに決めた。
だが、イスから立ち上がると、部下から声を掛けられた。

「あれ?お出かけですか、シルヴィー様?」

シルヴィー・ファランクス、それが騎士の名前である。

「ええ、昼食がてら見回りをしてきます、夕刻には戻ります。」

女性でありながら騎士隊長を勤める彼女は身だしなみを整えながら答えた
刀と脇差を腰に着けると、それは騎士というよりも侍のように見える。

「え、では、今日のおやつのカステラは私が頂いても良いですか!?」

溢れるよだれを拭いながら部下の青年騎士はシルヴィーに問い掛けた。
問い掛けられたシルヴィーはやや呆れたような表情をしている。

「・・・貴公は本当に甘い物に目がありませんね・・・ビル。」

「あはは、よく言われます。」

ビルは照れ笑いを浮かべる。

「構いません、好きなように処分してください。」

溜息混じりにシルヴィーがそう言うと

「よっしゃ、もうけ!!」

と、ビルは子どものように喜んだ。
そんなビルの様子を見ながら、ビルはまだ騎士に成りたてだったということを思い出した。

(私よりも2歳年下ですから・・・19ですか。)

ふとそんな事を考えていると、まだ一つ持ってない物があった事を思い出す。
シルヴィーは自分の机の引き出しから古びたハーモニカを取り出した。

「・・・それ、いつもお持ちですが大事な品なんですか?」

「ええ、とても。」

そう返しながら、ハーモニカを懐にしまい部屋を出ようとし

「あ、そういえば団長がお呼びでしたよ?」

「団長が?」

(・・・また・・・か・・・)

「報告ありがとう、では失礼します。」

シルヴィーは軽く会釈をし団長室へと足を向けた。

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『コンコン』

ノックの音が部屋に響き渡る、間を開けずに男の声が響く

「誰だ。」

「シカンダ王国 蘇芳騎士団 第六番隊 隊長、シルヴィー・ファランクスです。」

「シルヴィーか、入れ。」

「失礼します。」

シルヴィーが中に入り敬礼する。
その様子を部屋の主、騎士団長、ゼスカー・フォルスマンはイスに座りながら、嘗め回すような視線で見ていた。

「今回はどういった御用件ですか。」

シルヴィーはその視線を黙殺し、静かに聴いた。

「新しい『仕事』が入った、場所は東地区・スラム街だ、詳細はこれに記してある。」

そう言ってゼスカーは一枚の封筒を取り出した。

(・・・仕事・・・か・・・。)

シルヴィーは封筒を受け取ろうとし手を伸ばすと、封筒を受け取った瞬間に手首を掴まれ手前へと引っ張られた。

(っ!?)

ゼスカーは前か鏡になったシルヴィーに顔を近づけ耳の口を寄せる。

「・・・期待しているぞ?」

ゼスカーはそう囁き、ぬらり・・・とシルヴィーの耳朶を舐め上げた。

「――――――――っ!?」

シルヴィーは反射的に上体を起こし、間髪いれずに声を出す

「では、失礼しました。」

早急に告げると、部屋から逃げるように飛び出した。

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「・・・っ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」

シルヴィーは先ほど舐められた感触や首筋にかかる熱っぽい息などから来る嫌悪感を拭い去るため、耳から首筋にかけて腕でゴシゴシと擦る。

「・・・ちっ・・・。」

シルヴィーはこの国では有り得ない、母譲りである自慢の漆黒色の髪を手グシでサッと梳かし外へ出た。

『サァァァァァ・・・・』

そよ風が優しく頬を撫でる・・・その風に揺られるように、シルヴィーの長い黒髪がたなびいた。
その感覚にシルヴィーは、少しくすぐったがる様に目を細めた。

 

 

 

 


一幕    了

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ショウソウ ハヤ
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専門学生
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音楽(主にサンホラ)・映画・漫画・ゲーム
自己紹介:
気分によって一人称が変わります、普段は『俺』や『私』ですが、時折、変化してます。

性格は基本的に大らかな性格のへたれです。

名前に関しては偽名です。
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