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ここは自分の好きな事をダラダラと物申すブログです、不定期ですが(苦笑)
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詩人は最後にもう一度、竪琴を鳴らし詩を終えた。
シルヴィーが気がつくと周りの者が涙を流しながら手を叩いているのに気がついた。
その中に自分も含まれていた事に、シルヴィーは後になって気がつく。
それは自分でも気がつかないほど、詩人の奏でる詩に惹き込まれていたのだと言う証拠でもあった。
詩人は姿勢を正すと、始まりの時と同じように帽子を手にとってお辞儀をした。

「皆様、この度は御清聴ありがとう御座います、本日はこれにて終了させていただきます。」

詩人の声にハッとした様に周囲の人々が、先ほどのシルヴィーよろしく涙を流していることに驚いているようだった。
観客達は一斉にお金を詩人の下に投げる、中には詩人の前に立って厳かに手渡す者さえいた。
シルヴィーも涙を拭い、お金を出そうとし

「おい、兄さん・・・ちょっと待ちな!」

その手が止まった。
前を見やれば詩人の前に身の丈2メートルと言ったところの厳つい男が立っていた。

「兄さん、ちょいとお尋ねしたいんだが、誰の許可を得てココで演奏してるんだい?」

見るからに柄の悪そうな男は詩人に荒々しく聞いていた。
しかし、服装はしっかりとしており、大方、没落貴族だと判断できる。

「付近の人に尋ね、ココでなら構わないと聞きましたので。」

対し、男の荒々しい声にまったく物怖じしていないのか、詩人は穏やかに答えを返した。
その顔には微笑の二文字しかない。

「じゃあ、覚えておくんだな。
この広場は私の管理している土地だ、当然、私の許可無くして商いは出来ん。」

男はそう言うと、詩人に送られたお金拾い集め、これは私の物だと言い出した。
当然のことだが、これを不満に思った観客達が男を責め立てた・・・が、しかし没落したと言えど貴族と平民。
貴族はそれを馬鹿にし、あろう事か

「私の土地で私が何をしようと私の勝手だ。」

等とのたまい始める始末である。
だが、当然の事ながらその怒りを持っているのは力の無い平民だけではない。

(・・・見ていられませんね。)

このシルヴィーも観客達と一緒だった。
シルヴィーは詩人にチラリと見て思う。

(それに・・・この行為は観客だけではなく、何よりもあの詩人に対する侮辱だ。)

シルヴィーは人をかき分け、詩人と男の間に割って入った。

「それぐらいにしておく方が無難です。」

単刀直入、男が何かを言う前にシルヴィーは睨みつけながら言った。
男はいかにも不機嫌そうにシルヴィーを見ると、その顔をさらに歪める・・・ソレはまるで、汚物を見るかのような目だった。

「ちっ・・・何処の馬の骨かと思ったら・・・【異端者】か。」

「貴殿は先程、この中央広場を私有地とおっしゃいましたね・・・その言葉に虚偽はありませんね?」

シルヴィーは男の放つ悪態を黙殺し問い掛けた。

「ああ、そうだとも。」

対する男も勝ち誇るように答えた。

「なるほど・・・では、『誓約書』を拝見させていただきます。」

「・・・は?」

「誓約書です、この地は王の所有地であらせられます。
故に、この中央広場の様な一般大衆用の施設を貴族に預ける場合、国王陛下勅命の誓約書にサインし双方が保管する仕組みになっています。」

すらすらとシルヴィーの口から説明が飛び出る、その勢いは留まることを知らない。

「また、この勅命が下るのは国王陛下の近親者、もしくは国王陛下に縁のある者とお見受けします。」

そこに、男の反論の余地は許されない剣幕がある。

「ぬ・・・ぐ・・・!」

男は旗色が悪いのか、かすかに呻き声をあげた。
しかし、それでもシルヴィーは止まらない。

「では、改めて誓約書を拝見させていただきます。」

至って平然と言い放ち、男の出方を待つ。
男はわずかに逡巡した後に口を開いた。

「い・・・家に保管してある。」

その声は震えていた。
しかし、それと同時に男は希望も抱く。
家に帰れば誓約書の一つや二つ偽造することなど・・・男はそこに希望を抱いていた。
・・・だがしかし、現実はそう上手くいかないのが常である。

「では、家に保管してあるのですね?」

シルヴィーが間髪いれずに確認を取る。

「くどいぞ!家にあるといった!!」

シルヴィーは「なるほど・・・」と呟くと半眼で男を睨み上げた。
ここで、シルヴィーの『勝利』が確実な物となったからだ。

「では、お金を置いて今すぐお引取り願いましょう。」

「な、何故だ!まだ誓約書を見ていな―――――――」

「・・・お分かりにならないんですね。」

やや呆れたようにシルヴィーが呟く、そこには侮蔑のような響きも含まれている。

「誓約書なんて存在しません。
ここは国民全ての物であり、個人の物ではないと法で定められてます。」

その言葉を聞いて男は今度こそ青ざめた。
カマをかけられたのだ・・・この異端者に・・・

「い・・・【異端者】め・・・!!」

「お分かり頂けたのであれば、早急にお引取り下さい・・・不愉快です。」

丁寧口調による、明らかな侮蔑に男の頭が白くなりかける。

「こ・・・の!!」

シルヴィーを殴ろうと構えた、その刹那。

『シャラッ!!』

シルヴィーの刀が独特の抜刀音を奏で、男の首へと突きつけられた。

「・・・今すぐ、その手にもったお金を置いて立ち去りなさい。
それは観客の物であり、ひいてはソレを送られた詩人殿のものです。」

半眼・・・視線だけでも切り付けられそうな殺気が男を襲った。
それでも何やら反抗しようとしている男を見て、さらに刀が数センチ動いた

「もう一度だけ忠告します・・・お引き取りください。」

完全に切羽詰った男は何歩か後ずさると大口を開いて

「この・・・化け物め!!」

小悪党のようなお決まりの捨て台詞を吐いて、観客の人ごみの中に消えていった。
それを目で確認し、シルヴィーは「ふん・・・。」と鼻を鳴らして刀を鞘に収めた。
次にシルヴィーは、詩人や観客達に頭を下げた。

「お騒がせして、申し訳ありませんでした。」

謝罪だった。
理由はどうあれ、この場を騒がせたのは自分でもある。
だが、やったこと自体は良いことだと言えるだろう・・・だが・・・どうだろう?

「見て・・・あの髪・・・」

「・・・黒いわ・・・」

労いの言葉どころか、逆に化物を見るかのような目で市民は見て・・・そして囁きあっていた。

「【異端者】よ・・・!」

「汚らわしい・・・!!」

町の人々はシルヴィーを避けるようにして、散り散りに町の雑踏の中に消えていった。

「・・・。」

シルヴィーは何も言わない・・・否、何も言えなかった。
このような目にあうのも・・・元はと言えば自分の所為なのだ・・・そう心の中で自重した。
シルヴィーがいい加減、頭を上げようかと思い始めたとき

「・・・頭を上げて頂けませんか?」

正面から詩人の声が聞こえた。
顔を上げれば、やはりそこには先程の詩人がいた。
その顔には、ずっと変化していないのでは無いだろうかと思うような微笑がある・・・

(・・・何か・・・今はその微笑がイラつきます。)

少々、ムッとした。
が、詩人はそれを気にせず、シルヴィーに話し掛けた。

「助けていただき、ありがとうございます。」

そう言って頭を下げたのだ。
これに驚いたのはシルヴィーだった。
礼を言われるとは多少ながらも思っていたが、まさか頭まで下げられるとは思っていなかったのである。

「いや、困った人を助けるのは当然のことです。」

シルヴィーがそう言って詩人の頭を上げさせると、詩人はやはり笑顔で口を開いた。

「なるほど・・・では、助けて頂いたのですから、お礼を言うのも当然の事ではないでしょうか?」

「む・・・。」

詩人のもっともらしい言葉に思わず言葉を返せなくなった。
やがて、沈黙が気になったのか、再び詩人が口を開く。

「どうか・・・されましたか?」

「あ・・・いや、すみません、気にしないで下さい。」

(・・・思わず、考えてしまった・・・。)

すこし顔が赤くなるのを感じながら、シルヴィーはそれを隠そうと平静を装った。

「いえいえ・・・構いませんよ。
それで、何か御礼をしたいのですが・・・。」

「え・・・?」

(お礼?・・・誰が・・・・私が・・・?)

まさか、そんな事をしてもらう訳にもいかない。
シルヴィーは慌てて言葉を返す。

「そ、それには及びません・・・その・・・素晴らしい詩の視聴料とでも思ってください。」

「・・・そうですか、分かりました。」

やや残念そうに答える詩人を見て、微妙に自分が罪悪感のような物を感じたシルヴィーだった。

「・・・では、私はこれで失礼します。」

そう言って、シルヴィーはココから立ち去ることにした。
ココにいると、何故だか調子が狂う・・・そんな感じがしたからでもあった。

「お待ちください。」

「・・・何か?」

呼び止められ、シルヴィーは振り返った。
詩人はやはり微笑で話した

「よろしければ、お名前を聞かせて頂けないでしょうか?」

「・・・人に名を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀だと思います。」

ややつっけんどんに返すシルヴィー。

「これは失礼しました・・・私のことは『ティア』とでもお呼びください。」

シルヴィーは、その丁寧な返しに頷くと自分も答えなければと姿勢を正した。

「私は、シカンダ王国 蘇芳騎士団 第六番隊 隊長 シルヴィー・ファランクスです。
それでは、失礼します。」

シルヴィーは今度こそ広場から離れた。
そして、ティアという名の詩人も呼び止めはしなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四幕         了

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