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ここは自分の好きな事をダラダラと物申すブログです、不定期ですが(苦笑)
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シルヴィーは市場につくと、何を買おうかと頭を捻る。

(・・・野菜はまだありましたね・・・足りないのは・・・。)

そんな事を考えながら、日が傾きつつある町を歩く。
もうすぐ夕焼けといった感じの町並みは、夕飯の献立を考えながら買い物する主婦達であふれ帰っている。
そんな平和な世界を見つめながら、シルヴィーは今日買う物を決め、そちらへと歩を進めた。 
                 
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シルヴィーの着いた先・・・そこは行きつけのパン屋だった。
『ギィ・・・』という音を立てるドアを開け中に入ると、そこにはカウンターがあり、その下に数々のパンが置かれている。

「いらっしゃいまし。」

優しい老婆の声が耳に入り、シルヴィーは目を見張る。
カウンターを見やれば、其処にはいつも居るはずの人物が居ない・・・其処にいたのは目の不自由な老婆だった。
普段であれば、自分が入ってきた途端、敵意を剥き出しにして自分を睨みつけてくる幼馴染なのに・・・とシルヴィーは現状を珍しい物として感じながら、籠の中に大きさの割りに安いフランスパンと、一番単価が安いライ麦パンを入れ、カウンターの前に座る老婆の前に優しく手渡した。

「これを頂きます。」

「おや・・・その声は『シィちゃん』だねぇ。」

目が見えないのにも関わらず、老婆はそれを手に受け取り、優しそうに微笑みかけながら、彼女を昔の呼び名で呼んだ。
対するシルヴィーはやや頬を紅潮させながら俯き、本当に恥かしそうに喋りだす。

「あの・・・その呼ばれ方は・・・その、恥かしいです・・・。」

「うふふ・・・私にとってはいつでも、しぃちゃんよ・・・。」

その声には嘘偽りの無い慈愛が込められ、シルヴィーは何やらくすぐったいものを感じた。
老婆は手際よく、籠の中のパンを紙袋の中に入れ始める。

「・・・いつも孫娘がごめんね・・・」

ふと、老婆からそんな言葉が漏れた。
シルヴィーはなんと答えていいのか少し悩んだが、やがて口を開いた。

「いえ、良いんです・・・『仕方の無い事』ですから・・・。」

それは老婆を気遣う言葉であり、そして、自分自身への戒めでもあった。

「シィちゃん・・・『仕方の無い事』なんて無いのよ・・・。」

老婆はゆっくり話し始める。
それは、諭すような口調でも合った。

「・・・アレは、町の皆に一杯影響を与えたわ・・・でもね・・・いつまでもその事でシィちゃんがあんな目で見られるのは間違ってると思うの。」

老婆のそんな言葉を聞き、シルヴィーは俯いた。
あんな目・・・それは、いつでも人が自分を見る時の視線・・・。
畏怖・・・侮蔑・・・憎悪・・・殺意・・・ありとあらゆる感情がシルヴィーを貫いていく。
でも・・・と、シルヴィーは反抗しない。

(・・・私は・・・それだけの事をしてしまいました・・・。)

そう伝えようと思って、俯いた顔を上げる・・・そして、言葉が詰まった。
見上げた先に、老婆の優しい微笑みがあった。

「だから、一人で抱え込まなくて良いのよ・・・たとえ、皆が何と言おうと私の中の貴女は、あの頃と変わらないわ。」

老婆はそう言って、シルヴィーにパンをつめた紙袋を「はい」と差し出しながら

「ね、シィちゃん。」

ニコリと笑った。

「・・・ありがとうございます・・・リリアおばあさん。」

シルヴィーのお礼に「ふふっ」と老婆が笑い、それに釣られるようにシルヴィーも微笑んだ・・・。

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シルヴィーが店から出ると、外は夕方から夜へと移りつつあった。
辺りを見れば、人は先程よりも少なくなったのが分かる。
それが、皆自分の家に帰っていったという事なのだろうとシルヴィーは感じた。
そのまま、しばらくの間突っ立っていたが、やがてシルヴィーは足を踏み出した。
・・・自らの家へと。

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シルヴィーの今の家はスラム街の片隅にある。
ボロイ家ではあるが、まだ屋根などがあり、寝食が行えるだけマシと言う物でもある。
スラム街に住まう者の中には、そんな家すらない者だって沢山いるのである、その様な贅沢を言えば、それこそ贅沢という物である。
シルヴィーが家に着く頃、日はすっかり沈んでしまっていた。

(・・・調度、夕飯時です。)

空を見上げながら、シルヴィーは時間を確かた。
シルヴィーはパンの入った紙袋を片手にドアに手をかけ中に入った。

「ただいまです。」

 

 

 

 

 

 

 


第六幕       了

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気分によって一人称が変わります、普段は『俺』や『私』ですが、時折、変化してます。

性格は基本的に大らかな性格のへたれです。

名前に関しては偽名です。
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